私は現在、愛媛大学附属病院に勤務し主に角膜疾患を専門に診療を行っています。当院では私のほか、複数の角膜専門医が在籍し日々あらゆる角膜疾患に対応しています。当院の角膜専門外来は毎週火曜日ですが、愛媛県内のみならず中四国や九州など県外からの患者様も多数ご来院されています。
正常な角膜は透明かつ均一なカーブをもつ組織で、カメラのレンズのような働きもしています。しかし何らかの原因により角膜に混濁や変形をきたしてしまうと、機能を十分に発揮できなくなり視力に影響を及ぼしてしまいます。角膜に混濁や変形を及ぼす原因は先天的な疾患や外傷、細菌やカビ、ウイルスなどの感染症など様々あります。角膜感染症の場合、まずは点眼薬などの薬物治療で治療を行いますが、薬物治療後も混濁や瘢痕による変形が少なからず残ってしまうことが多く、視力不良な場合には角膜移植が必要になることがあります。
そのほかにも、網膜疾患や緑内障などで複数回手術を繰り返さなければならなかった場合においても、角膜の最も内側にある内皮細胞が手術によるダメージをうけ徐々に弱ってきてしまい、角膜が白く浮腫んで濁ってしまう場合があります。その状態を「水疱性角膜症」といい、現在のところ角膜移植が唯一の治療となります。水疱性角膜症に対する角膜移植では、以前は患者様の角膜全層を直径7-8mmで丸く打ち抜き、ドナー(提供)角膜全層を移植する「全層角膜移植」が主体でした。しかし近年では角膜移植の手技も進歩し、傷んでいる内皮のあたりだけを移植する「角膜内皮移植」が主流となっています。角膜内皮移植は、入れ替える組織が少ないため、術後合併症である拒絶反応のリスクが少ないことや、手術時の創口が小さく縫合も少ないため、術後の乱視が少なく比較的早期に術後視力が出やすい、また縫合糸からの術後感染症のリスクも少ないといったメリットがあります。
全層角膜移植の術後
角膜内皮移植の術後
今後、角膜移植の技術はさらに進化しiPS細胞も含めた培養細胞の移植ができるようになる日も近いのではないでしょうか。そうなると、培養細胞を眼の中に注射して終わり、といったことも可能になるのかもしれません。とはいえ、現時点ではまだ培養細胞での移植は実験段階の部分も多く、実際に適応可能となるには課題も多いと思われます。また角膜全体を入れ替えることが可能になるような再生医療は容易ではありません。やはり提供角膜による角膜移植の必要性は今後も続いていくと思われます。角膜移植は、角膜を提供してくださる方々と、それを橋渡しするアイバンクの協力があって成り立つ治療です。一人でも多くの患者様に光を届けられるよう、これからも皆様の温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。私たちもご献眼いただいた方とそのご家族のお気持ちにお応えできるよう、日々診療に努めて参りたいと思います。
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